昼休みにコツコツと…第1話「振り返ればヤギ」 学校から帰って家に入ると、ヤギがコタツでくつろいでいた。 …。 俺「あ、こんにちは。ペコ」 俺は見知らぬお客に丁寧に挨拶をした。 家でも学校でも挨拶はキチンとしなさいと厳しく言われてるのだ。 ヤギ「…」 (スルーかよ!) 心の中で殺意を覚えた。 (呑気に口をクチャクチャさせやがって…何を食べてるんだ…?) …! (俺のカレーパンじゃねーか!) (学校から帰ったら食べようと思って愉しみにしていたのにぃぃぃ!) しかし俺も男だ、グッと怒りを堪えて尋ねた。 俺「あの…どちら様でしょうか?」 ヤギ「…」 (やはり反応無し…)ちっ! …? 良く見ると、どこかで見た様な服…。 …! (おい!てめい!俺のお気に入りのカーキー色のシャツを着てやがる!) マジで殺意を覚えた。 ヤギ「バハハハハハハ!」 突然、ヤギが笑い出した。 (な、なんだ?!) 奴が笑ってる方を見た。 玄関に、俺の彼女の「とんまるこ」が立っていた。 学校の帰りに俺んちに寄って、一緒に勉強しようと約束していたのだ。 俺「あれ?もう用事済んだのか?」 とん「…うん…なに?あれ…ヤギ?しんじらんな~い」 彼女はゲラゲラ笑うヤギを不愉快そうに見た。 ヤギ「バハハハハハハハ!ブス!」 とん「何よ!失礼ね!」 タタタタッ、バンバンバン! 彼女は土足で上がると、ヤギに往復ビンタした。 ヤギ「ブヒーーーー!」 ヤギは泣き出した。 ヤギ「ブヒー~~!」 いや、泣くっていうより、悲鳴に近かった。 仲間を呼んでる様にも見えた。 (は?!…もしかして仲間が居るのか?…) 俺は焦った…。 「誰だぁ~!俺のダチ泣かすのは~!」 家の奥から、大男が出て来た。 親父だった。 親父「くぅらぁ~わしの可愛いしんちゃんを虐めるのは誰だぁ~」 (しんちゃんて名前かよ!) 親父は身長2m7cmある。昔、全日本のメンバーに選ばれた事がある。 卓球で…。ぷぷっ。 親父「ま、良いわい。そんなことより、トランプやらねーか?トランプ。折角、4人揃ってるんだしの~」 (ヤギも数に入ってるのかよ!) ヤギ「バヒィィィ~!」 (歯剥き出しで喜んでるし!) とん「オジサン、私やるって言ってないわよ。勝手に仲間に入れないで!」 とんまるこが、河豚の様に頬を脹らまして言った。 親父「ありゃ!フカキョンが来てるのかと思ったわ!」 とん「私、トランプ大好き♪」 ヤギが手を叩いて喜んでいる。 親父「じゃ、久しぶりに神経衰弱でもやるか? なぁー、しんちゃん!」 ヤギ「ブヒブヒ!ビヒヒヒ~!~~~」 かなりトランプが好きなようだ、部屋中転げ回って喜んでやがる…。 …時間経過…。 結局、トランプは親父の一人勝ち。 とんまるこは怒りだすし、ヤギはトランプを食べ出すし…。 散々な、俺にとっては無駄な時間だった…。 親父「よし!腹へったから焼肉にでも行くか!?」 ヤギ「!ブヒブヒブヒ~~!!」 ヤギがまた手を叩いて、飛び上がって喜んでやがる。 俺「親父!金持ってるのかよ?」 親父は、ヤギに聞かれない様に、小さな声で、 「目の前に居るがな…美味しそうなのが、ウシシシシ…」 と言った後、チラッとヤギを見た。 そして、親父は口をぺろりとなめまわした。 …ゾゾゾ…。 何も知らず、しんちゃんは跳ね回っていた。 側で迷惑そうに見ていたとんまるこの股間に、後ろ足がヒットしたらしく、 また、往復ビンタをくらっていた。 親父「さぁ、みんな車に乗れ!」 俺「車で行くのかよ!直ぐそこだろ?」 親父「まぁ、つべこべ言わず乗った、乗った。しんちゃん!運転頼むわ」 ヤギ「ブヒヒヒ~!」 (運転するのはヤギかよ!) ヤギ「ガヒブヒボヒ」 親父「みんな乗ったか?って言ってるぞ」 (通訳かよ、親父!) 車が走りだした。 無難に運転をこなすヤギ、助手席でアドバイスする親父…? 親父「しんちゃん、これがハンドルでこれがスピードメーター…」 (初心者かよ!) 親父「…?なんだ?文句あるのか?…そうか、若葉マークを貼ってないのが 気にくわないのか?」 (そこじゃねーだろ!) とん「降ろして!こんな馬鹿一家と一緒に死にたくないわぁぁ~!」 親父「ん?ありゃ、よく見ると横顔が伊東美咲にそっくり!ん~いや、それ以上かも!」 とん「ああ~ドライブ最高!風が気持ち良い~!」 と、目をつむり大きく息を吸い込んだ。 俺「とんまるこ!目を覚ませ!お前が嗅いでいる匂いはヤギの鼻息だ!」 とんまるこが目を開けると、目の前に、歯を剥き出しにしたヤギの顔があった。 キャー!!バシ! 平手打ちされたヤギは上手い事クルッと回って前を向いた。 親父「しんちゃん、あんまりよそ見するなよフフフ…」 ヤギ「…うう…ヒック、…ヒック」 しんちゃんは、しゃくり泣きしながら運転を続けた。 暫くすると、 親父「お、いたいた!しんちゃん、あそにハンドバックを持った人がいるだろ?あそこの前で止めてくれ」 左前方8m先ののバス停の辺りで、何やら大きな荷物を持った女性が立っていた。 こんな遠目でも、目がチカチカする程の派手な服装だった。 俺「誰?親父の知り合い?」 親父「…!ちょと待て!…今すぐ止めろ!」 親父がその女性を凝視しながら叫んだ。 しかし、ヤギの運転する車は止まろうとはしなかった。 親父「しんちゃん!止めろ!奴は囮だ!しんちゃ~~~ん!」 助手席にいた親父は逃げるように、後部座席に移動してきた。 俺「親父!なんだ?どうしたんだ?!」 問い質す俺の言葉を遮り耳を押さえ、かくれんぼのようにしゃがみこんだ。 (なんだってんだ?囮って何のことだ?…) 俺はその女性を見た。 ぎょ! 俺は自分の目を疑った。 女性と思われていたのは、男だった。 親父「しんちゃん!止まるな!飛ばせ~!奴に見つかる前に~!」 親父が後部座席に頭を抱えながら叫んだ! ガタガタ震えていた。 ブォォォォォ~~~! その言葉には反応したのか、ヤギはスピードを上げた。 そして見た。 その女性の、いや、男の前を擦れちがう一瞬に目が合ったのだ。 まるで、飢えた野獣のような、もしくは冷血動物のような目だった。 <主食は人間>ってな感じので、俺は背筋が凍った気がした。 親父「…過ぎたか?…見つからなかったか?…」 親父が震えながら聞いた。 俺「ああ、大丈夫。通り過ぎたぞ」 親父「…本当か!よし、やったぞ、しんちゃん」 親父は嬉しそうに首を出して来た。 俺「何をびびってんだ、親父!あははは」 ヤギ「ぶひひひひ!」 しんちゃんが、バックミラーを見ながら素っ頓狂な声を発した。 俺たちは一斉に後ろを振り返った。 …! あの女装した男が新型ターミネーターの如く追いかけて来ていた! とん「なぁ~に、あれ。あはははは!本気で走ってる~!あはははは!」 鈍い彼女にはこの場の状況が把握できていない。 しかし、俺には直ぐ判った、無表情で追いかけて来る男がどんなに恐ろしい奴なのか。 あの、恐いもの知らずの親父がこれほど怯えているのを見るのは、死んだかあちゃんに、出刃包丁を持って追い掛け回されて以来だろう。 親父「しんちゃん!スピードアップじゃ!」 ヤギ「ぶひぃぃぃいい!」 ヤギはアクセルを力いっぱい踏みつけた。 とん「あら?あのオカマ見えなくなったわ。残念ねー!あはははは」 親父「そうか!引き離したか。ちょっとは一安心だな、ふう~」 とん「あ!来た来た♪自転車に乗ってるわ!」 嬉しそうに、とんまるこが叫んだ。 親父「な、なに!」 慌てて振り向く親父。 何処で盗んだのか判らないが、新型のスポーツタイプの自転車を高速回転させて、俺達を追って来ていた。 親父「ちくしょ~ひつけ~野郎だぁあ~。しんちゃん、運転代われ」 スルリと二人は入れ替わった。 親父「散弾銃で吹っ飛ばしてやる…。しんちゃん、後部座席の下にある箱を出してくれ」 ヤギはゴソゴソとやっていたが、やがて箱の中から黒いものを引っ張り出した。 しんちゃんは、散弾銃を抱えた。 (撃つのはヤギかよ!) ウィーン。 助手席の窓を開けた。 ヤギは身を乗り出し、散弾銃を構えた。 ちょうど、暴走族がよくやる箱乗り状態だ。 いつのまにかサングラスまでしている。 とん「いやぁ~カッコイー。西部警察の渡哲也みたぁ~い♪」 ヤギは気を良くしたのか、ニヤッっと笑った。 親父「しんちゃん、よく狙えよ~一発でしとめないと大変な事になるぞ」 ヤギ「バフバフゥ~」 親指を突きたてた。 (どれが親指か解からねーよ!) ドッキューン! ヤギがぶっ放した! ボ~ン! 「ぎゃお~!」 命中したらしい。 断末魔の様な声をだして、オカマは俺達の視界から消えた。 しかし、その衝撃でヤギが窓から落ちそうになった。 親父が両手でヤギの足を咄嗟に掴んだ。 キキキキキー! 意思持たないハンドルは勝手に切れていった。 「うわ~~~!」 車は路肩に乗り上げて、目の前にコンクリートの壁が見えて来た。 とん「ああ~!もうダメ!死んじゃう~!こんな事だったら、腹一杯メロン食っとくんだったわぁあ~!」 俺「親父~!ヤギの足を離せ!ハンドルを切れ~!ぶつかるぅう~~!」 親父「嫌じゃあ~!大事な焼肉、離すもんかぁ~あ!」 第2話 「振り向けばカピパラ」 女「おじさま、おじさま~!起きて、起きてちょうだい!」 親父「…ん?なんだ?誰だあんた?」 女「なに言ってるの!わたしを忘れたの?もう、酷い!」 親父「…うう…良くわからんけど…えらいべっぴんさんやな~結婚してくれ!」 親父が飛びついた。 俺「親父!そりゃとんまるこや!」 と、俺が忠告する前にとんまるこにぶっ飛ばされていた。 ドサッ!ゴロゴロゴロ~ボコ! 2メートルほど飛んで行って、椰子の樹に頭をぶつけて、また気絶した。 …。 とんまるこの破壊力あるパンチは常人を超えている。 …こいつだけは敵にまわさまいと、心に誓った俺だった。 横でヤギが手を叩いて喜んでいる。 とん「ホント困るは、あんたの親父。またエッチな夢見てんでしょ」 俺達は無人島に流れ着いていた。 「ニッポン!チャチャチャ!ニッポンチャチャチャ!ニッポンチャチャチャ!」 突然、ニッポンコールが起こった。 !? とん「なに?どこから聞こえるの!この異様に揃った声援!」 俺「…?」 俺達は辺りを見回した。 (無人島じゃなかったのか?…) ヤギ「ブヒ~!」 ヤギが遠くの崖を指差した。 そこには青いユニホームで決めた、4人のサポーターが居た。 そのサポーター達も俺たちの事を気づいたらしく、急な崖を一斉に駆け下りて来た。 とん「いやぁああああ!気色悪いぃぃいいい!」 ヤギ「ボヒィ!」 とんまることヤギが俺の後ろに隠れた。 彼らは凄い勢いでこっちに向かって走って来た。 遠くて判らなかったんだが、だんだん近づいて来てよく見ると、彼らはみんな笑っていた。 中国歌劇団か朝鮮民族舞踏団のように作り笑いだ。 (き、気色わるい…) 中にはまるで旧知の仲の様に手を大きく振っているのも居た。 サポーター「お~~~い!」 そして、もっと 近づいて判った事が… 奴らの手には大きな出刃包丁が握られていたこと! 俺「逃げろ!奴らは俺たちを殺す気だぁ!」 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|